男子校の様な学生生活。そこで出会った担任の熱血先生に心動かされることになりました。
レスリングでオリンピック出場経験の有る担任教師M氏は、いつも我々の想像を超えた言動で接し色々な事を伝えてくれました。
あの日も、理解を超えた出来事で接してくれた事が、私の心に火をつけることになったのです。
朝一のホームルーム。いつもと違う雰囲気の先生が教室に入ってきました。
『今日はとても悲しい事を話する。俺は、お前たちを全員卒業させると入学式の時に約束した。それが叶わないかもしれない。
この中で万引きに関わった生徒がいるかも知れないと情報が入った。素直に教えてほしい・・・。みんな目を瞑れ』
ざわめく中、みんなが目を閉じました。
『万引きの事を知っているやつ、手を上げろ』と先生の声が響き、静まり返ります。誰も手を上げません。
『俺は、手を上げたやつを責めたりしない。真実が知りたいだけだ。もう一度、聞く。万引きの事を知ってるやつは静かに手をあげろ』
先生がそう言うと、カサ・・・カサ・・・数人の手が上がる音がしました。
『わかった。手を下げろ・・・。とても残念だが、この中に万引きの事に関わった仲間がいる。これは、連帯責任だ。
みんな、机の上に正座しろ!!』えっ!?連帯責任!?意味わからないんだけど・・・
みんながざわつき、動こうとしない中、先生の顔は、まさに今からオリンピックの試合に挑もうかとする様な形相でみんなを睨み、
我々は蛇に睨まれるカエル状態。仕方なく机の上に正座すると・・・
『これから俺はみんなに愛の鞭を下す!!連帯責任だ!!歯を食いしばり、目を閉じろ!!』
愛の鞭!?歯を食いしばれ!?目を閉じる!?おいおい!!俺たちどうなるんだ??
訳が分からないまま目を閉じて、ただただ怖い!!の感情だけでした。
『前の席から順番に、いくからな!歯を食いしばれよ!』
『〇〇!!』(生徒の名前を呼び)ビシッ!!バシッ!!ドドドッ!!!
机から転げ落ちる生徒もいました。音だけが迫ってきて、手が震えてきたのを覚えています。
〇〇!! ビシッ!!バシッ!! 〇〇!! ビシッ!!バシッ!!ドドドッ!!!ガシャーー!!
ついに、来た!!! 『大塚!!歯を食いしばれ!!』
・・・
バチッビシッ!!思いっきり頬をビンタされました。机から落ちないように身体を思いっきり固定していましたが、
実は、怖すぎて殴られる瞬間、薄目を開けていたのです。その時の先生の顔は今も忘れられずにいます。
涙を流しながら、先生も歯を食いしばり、誰かに殴られているかの様な顔をしていました。
その瞳は、決して我々を見下すものではなく、今想えば愛おしいものを見るような、そんな瞳をしていた気がします。
みんなが愛の鞭をもらい全てが終わった時、
『みんな、本当に申し訳ない!この通りだ!許してくれ。俺は、みんなに約束した事を守りたかっただけだ。
みんな全員、立派に卒業させる役目が俺には有る。それが果たせなくなるという事は、俺は嘘つきだ。俺が責任を取るから』
現代なら教育委員会へ通報され、体罰だ!!と保護者から訴えられるかも知れない。
当時もその可能性はあったが、先生が身を投げ我々に何かを伝えたかったんだと思うのです。
子供心に、熱いものが身体の中に入ってきました。
愛の鞭は、かなり痛かったけれど、それ以上に先生の言動に心打たれ、大人って凄いなぁ・・・と鳥肌がたったことを覚えています。
その後、誰も保護者に言わず先生のしたことは、我々の中で当たり前のこととして処理されました。
人を想う事、色メガネで人を見ない事、大人が子供に伝えることは何なのかという心のスイッチが目覚めた瞬間でした。